ジュリアス・ドレイク 『無言歌』 Julius Drake: Songs without Words

Songs Without Words

Songs Without Words

 

ドレイクの名を知ったのは何年か前、ボストリッジの伴奏者としてでした。僕はその頃、ハイペリオンに吹き込まれたジョンソンとの『水車小屋の娘』を聴いて――フィッシャー=ディースカウの朗読入りのCD――ボストリッジの線の細い声にすっかりはまってしまい、あれこれと買い求めていました。

一番気に入ったのは『詩人の恋』で、繰り返し聴いたけれど、僕は愚かにも、ボストリッジだけが素晴らしいのだと思い込んでいて、伴奏者の名前などそれほど気に留めませんでした。素晴らしいのはただ歌手なのだと。

ドレイクを強く意識するようになったのは、同じくボストリッジの、別のピアノ奏者を伴奏に迎えた幾つかの音源で、悲しい思いをしてからです。もっと素晴らしい体験を予感していたのに、裏切られたというような思いが何枚か続き、やがて伴奏者ドレイクの偉大さにようやく心が至ったのでした。

それから今度は、ドレイクの名前を頼りに音源を捜しました。何を聴いてもすばらしかった。フィンリーとの競演もよかったし、ハント=リーバーソンとのライヴ盤はいつまでも心に残っています。

そのドレイクの、珍しいソロアルバム(タイトルも、歌曲伴奏者のソロアルバムとしてユーモアが効いてます)。シューマンの作品68からの2曲でこのアルバムは始まるのですが、本来1曲目であるはずの『メロディ』の露払いに、『ミニョン』。不覚にも泣いてしまいました。涙がそれだけで芸術の価値を決めるとは到底思わないけれど、僕はこのCDのことを忘れないと思います。批評でよく見かける「インティメイト」という言葉は、こういうときに使うのかも知れないと思いました。彼の芸術を誰よりも愛している僕のために演奏してくれている、そういうばかげた勘違いをさせてくれる演奏。

つまりこれを聴いている間、僕は落ち着くし、寂しくないのです。

 

Lieder

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